フランスにおける正当防衛(Légitime défense)

正当防衛といえば世界中どこでも、自分や近くの人あるいは物を守るために犯した暴力行為等を言う、ということになりそうです。

しかし、フランス映画やアメリカ映画を見ているとかなりのニュアンスの違いがあるように思えますね。

フランス映画ではよく主人公が死んでしまったり殺されたりします。しかも、実に簡単にあっけなく殺されることがよくありますね。 もちろんアメリカ映画でも主人公が死んでしまう映画はありますが、この場合たいていは、この主人公は英雄として死んでゆきます。

同じ正当防衛といっても、フランスやアメリカあるいは日本ではかなりニュアンスが違いますから、日本の常識で正当防衛だとしてやったことがもとでとんでもないことになることもあり得ます。各社会や文明の違いはよく理解していたほうが良いですね。

フランスにおける正当防衛について概要をご説明します。

 

  • 正当防衛 Légitime défense
  • まず法的には、正当防衛の状態で法律違反を犯したときには、その人は刑事的には法的には責任がないということになります。

    そして正当防衛が成り立つためには、防衛の行為が必要であり攻撃に対して比例したものであること、あるいは所有物に対して行われる軽罪や重罪阻止するためのものであることが必要です。

    いくつかの状況のもとでは正当防衛が推定されるものとされます。

    判事は正当防衛が成り立つかどうか、ここの場合の状況を判断して決めます。特に行われた行為が必要であり攻撃に対して比例したものであるかどうかを検討します。

     

    (1)正当防衛といえるためには、相手の攻撃が重大で正当化できないものでなくてはなりません。

    暴力で訴追された人が、実は自分のほうが正当化できない攻撃の対象であったということはよくあります。

    赤信号でほかの車の運転手が車から出て殴りかかってきたので、自分も拳骨で殴り返した場合は、最高裁まで行って、正当防衛が確定しています。

    こんな例もあります。

    執達吏がやってきて、母親から乱暴に書類を取ろうとしたので、息子が母親を守るために執達吏にとびかかってけがをさせた場合には、正当防衛が成り立っています。これも最高裁まで争われています。

     正当防衛というと、なにか肉体的に攻撃された場合を浮かべがちですが、必ずしもそうではありません。 学校の先生が女子生徒にさんざん侮辱された時に(これは口頭によるものです。)、先生がこの女子生徒を蹴飛ばした事件では正当防衛が成り立っています。これも最高裁まで争われています。

    これを見てもわかりますように、こうした正当防衛というのは、当事者同士の間ではなかなか意見が分かれるために、結構最高裁まで争われることが多いといえますね。

    正当防衛は財産等を守るための行為でも認められますが、ここには一つの大きな違いがあります。こうした財産等を守る場合には、殺人を犯すことは正当防衛にはならないんですね。 これが犬の場合ですと、地下鉄の中で自分の見回りの犬が相手の犬に襲われた時に、相手の犬を撃ち殺したときには正当防衛が成り立っています。これが人になると正当防衛は成り立たないということですね。

     

    (2)正当防衛が成り立つためには、その行為が攻撃に対して即反撃され必要であったということがポイントです。

    要するに攻撃に対して時間がたってから反撃したものは、正当防衛ではなくて、復讐であるというのがフランスでの考え方です。

     当たり前だと思うかもしれませんが、現実の中で判断するときには結構微妙な場合があります。

    例えば、何度も何度も自分の店を泥棒された店主が、店の上にある自分の住居の窓から車で逃げてゆく泥棒たちに発砲した時には、判事は正当防衛を認めませんでした。判事の判断では、この逃げてゆく泥棒たちに発砲するというのは、すでに攻撃に対する反撃が同時性に欠けているということになります。

    こんな例もあります。

    スーパーマーケットでキャッシャーと口論をして自分の持っていた小銭を彼に投げつけたお客さんが、キャッシャーに少々乱暴に店外へ追い出された時に、夕方になってこのお客さんが自分の仲間を連れて戻ってきてこのキャッシャーを棒でひっぱたいた件については、やはり正当防衛を判事は認めませんでした。この時の判事の判断も、反撃の同時性がないというものです。

    正当防衛が成り立つためには反撃が必要なものである、ということもそれほど明白ではなくて状況次第です。

    上記の赤信号で殴られそうになった人が自分が拳固で相手を殴ったというのは正当防衛が成り立ちましたが、この反撃した人が空手やボクシングのチャンピオンだとこうは行かなかったでしょうね。 反撃する側の実際の力もそうですが、心理的に恐怖やその他で追い詰められた時には、大きな反撃も攻撃に比例していると考えられるということですね。

    ですから、暴力で何かを取られようとした高齢のおばあちゃんが恐怖に駆られて相手の目をつぶしてしまったりしても、これはきっと比例した反撃といわれる可能性が大きいですね。

    こうした意味での比例した反撃というのは正当防衛を考える上で大切です。

    こんな例もあります。

    車の中にいた人が攻撃されたとして車の外へ出て相手に暴力をふるった例では、判事は車の中で扉の鍵をかけて警察を呼べば済むことを本人が外に出て大乱闘をするのは正当防衛とは言えない、と判断しています。

    夫婦げんかで、奥さんがワインの瓶で頭をひっぱたいたというので、奥さんを暴力で取り押さえたという件では、やはり正当防衛は認められていません。力の差がありすぎるので、もっと穏やかに取り押さえることができたはずというのが判事の判断でした。

     

    (3)反撃は攻撃に比例したものでなくてはなりません。

    これも心理的な要素がありますから、簡単には言えませんね。拳闘の世界チャンピオンに襲われたらこちらはピストルをぶっ放しても比例しているといえる可能性が大きいですね。

    ここも結構難しいのですよ。比例した反撃の結果が、はるかに比例を越えたおおきな損傷を引き起こしても正当防衛が成り立つこともあるんです。

    こんな例があります。

     酔っぱらった友人が野菜畑に入ってきて乱暴を働くので、女性が手元にあった小さな蕪を投げつけたら運悪く相手の目にあたって失明してしまった事件では、小さな蕪を投げつけたということが、酔っ払って畑を荒らす人に対する比例した反撃として正当防衛が認められています。運悪く失明した結果は正当防衛と判断するかどうかには関係しないということですね。

    ロゼワインを顔にぶっかけた奥さんを床にたたきつけた男性に対しては、正当防衛が認められていません。攻撃に対する反撃が比例していないという判断です。

    こうして例に挙げている場合はすべて最高裁判所で争われていますから、正当防衛ということに関しては、関係者の視点が変わると意見が全く変わってしまうということを如実に表しています。

    旦那さんに頭をひっぱたかれて反撃して旦那さんの唇から顎にかけてかみ切ってしまった奥さんにも正当防衛は認められていません。

     

    (4)ある種の状況下では、正当防衛が推定されたものとして存在しています。

    例えば夜中に自分の住宅に侵入してくる人に対して反撃するというのは、正当防衛が推定されるものということになります。ですから、この場合には、侵入しようとして一生障害者になったとしても原則として正当防衛が成り立ちますから、成り立たないという反証を出す必要が出てきます。

    普段から仲の悪い隣人が20時45分頃に庭に入ってきたので暴力的に追い返したと言う人に対しては、正当防衛が推定されるとは判断されませんでした。

    なかなか微妙な判断ですから、こんな例もあります。

    71歳のおじいさんが一人で住んでいるところで、夜中に雨戸をあけようとする音がするので、ピストルをぶっ放したという件では、このおじいさんが警察に電話したりあるいは隣人のところへ行く時間が十分にあったということで、即座にピストルをぶっ放したことを正当防衛の枠内とは認めませんでした。これも最高裁まで争われています。

    この講の初めに何度も泥棒に入られた店主が車で逃げてゆく泥棒に発砲したのは正当防衛とは認められませんでしたという例を挙げました。 同じような例で、この泥棒が逃げる車をバックさせてきたので、そこにいた人が発砲した件については、正当防衛が認められています。

     

    (5)刑事裁判で正当防衛が認められた場合には、その行為がその後の民事裁判あるいは労使裁判の対象となることはあり得ません。

    例えば、この講で畑を荒らされた女性が蕪を投げつけたら運悪く相手の目をつぶしてしまった件では、この目をつぶされた人はこの後民事裁判を起こしてつぶされた目に対する損害賠償を求めるという道を完全に断ち切られてしまうといことになります。

    例えば、被雇用者が暴力沙汰などで刑事裁判にかけられているときに、雇用者が重大な過失としてこの被雇用者を解雇したのちに、彼の正当防衛が認められれば、この解雇は理由がないとして労使裁判所の結果が無効になります。 正当防衛が認められない場合にはその後の民事裁判により損害賠償や労使三番がすべて可能になります。

     

    ※情報は掲載時点のものです。また、あくまで一般論であり、背景の異なる個別のケースでは該当しない場合もあります。最新の情報やお客様のケースにあった情報につきましてはお問合せください。

     


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